反物語主義

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「虫籠」

 この作品も前回の「彫刻家」同様、大学の文芸会で発表した作品である。お題は「ハッピーエンドにならない小説」だった。

 

 ブログタイトルに「反物語主義」とあるように、ここ最近の私は「ストーリーとの訣別」をテーマに創作を行っている*1ため、私の作品にはこれといった話の筋がないものや明瞭なオチを設けていないものも多い。一応、考え方によってはそれらオチのない作品も「ハッピーエンドではない」と言うことも出来よう。

 しかし、やはり課せられたお題への向き合い方としてはハッピーエンドではないオチを用意しキチンと物語を閉じたほうが適当だろうと思ったので、今回は比較的にストーリーがしっかり通った作品になった。

 

 私には、短編小説を書く際に常に意識し手本としている作品がある。夏目漱石の「夢十夜」である。特に第七夜、船の話の結末部分は今まで読んできた作品のなかでも際立って印象深い。ぽん、と軽く放るような、それでいて裏切られたような無力感を感じさせる漱石のオチは、私にとって一つの理想形だ。

 この作品も、「夢十夜」から明確な影響を受けている。作風や色合いは、第一夜に限りなく近いと思う。

 

 文芸会のメンバーにも読んでもらったが、評価はなんともぱっとしない。決して失敗作というわけではないようだが……。私自身はそれなりにうまくまとまった気でいたが、やはりこれと言って攻めた部分がない冒険心に欠いた作品だという点は否めないだろう。(その反動で書き上げた実験作が前回の「彫刻家」である)

*1:このテーマについての説明は長くなるため今回は省略する。後日別途で独立した記事を執筆するかもしれないし、しないかもしれない。